登る峠の道標

ただいまお試し期間中

前夜 「決壊」 ゼロ地点

ずっとずっと以前から、塵のような目にも見えないような何かが少しずつ少しずつフワフワと体の中に溜まりこんでいた
そして月日は流れ流れて2010年、蝉も鳴きやんだ夏の終わりに、鈴虫もまだ鳴かない秋の始まりの事

その何かが溜まりに溜まって、とうとう壁は決壊し溢れだした


あっ・・・
コワレタ・・・(ヒットエンドラーン、ヒットエンドラーン・・・・・)





偶然ではない必然である
計画的ではない突発的である
反社会的で独りよがりな愚かな行為である



以下に記述する


前夜

コワレタ人間の行うその鬼気迫る片付けは出発の一週間程前から始まり作業を加速させつつ精神汚染部屋を浄化していった。出発数日前には、格段に浄化作業も進み床に空白の存在が確認できるスペースができていた。

妙に落ち着いた興奮状態が段々と高まってきていた。この感覚は久しぶりだ。以前にはいつのことであったのか覚えてすらいないこの感覚だ。
遠い遠いあれから、あまりにも時間は流れすぎていたのだ。

ベッドに腰掛け、目をギラギラさせながら必要な用具を選別する。試行錯誤の末ドラムバッグの中に用具を全てまとめいれることができた。

最後の清めにと真夜中に熱い風呂に入り体を芯から暖める。そして間髪おかずに即服を着る。何枚も何枚もギュウギュウに重ねて着る。暦の秋とは言え真夜中でもさほど寒くはない。すぐに体中の毛穴から汗が吹き出てくる。額から汗を流しながら外に出た。雲の無い夜空にはオリオン座傾いていた。

ここ1週間の徹底した整理整頓片付けのおかげで用具全て迅速にでてくる。着膨れした体中が蒸して暑くてグラグラする。汗が止まらない頭を掻き毟る。そんな狂いつつも作業だけは迅速に冷静にサクサク進めていった。ボルト部を念入りに閉める。摩擦箇所に油を注す。雨天時に考えられる浸水箇所にも念入りに注油。円滑油を補充する。頭をフル回転させて納得いくまで何度も凝視して確認した。最後にパンパンに荷物の入った重いドラムバッグを後部へ載せてバンジーコードで固定、更にゴム網を全面の載せて万全に固定した。

油漏箇所を睨みつつも、不安を振り払って、中央先端部の隙間に鉄鍵を突き刺し跨る。フーっと深く深く深呼吸する。そして次には目を見開いて、思い切りペダルをキックした。
一発点火
エンジン始動
アクセルを傾ける
クラッチを放す
鉄馬はゆっくりと力強く動きだす